ハーレー・ダビッドソンの老舗ディーラー、「村山モータース」が破産しました。
「村山モータース」は1953年(昭和28年)に設立され、ドゥカティ、カジバ、ラベルダ、トライアンフなどの欧州メーカーのオートバイの輸入販売を手掛けていたバイク界の草分け的な会社です。
またハーレーダビッドソン・ジャパンが日本国内の総代理店となる前から、ハーレーの並行輸入を行うなど、ちょっと尋常ではないバイク愛と情熱を持った会社で、日本のバイク界に与えた影響も少なくありません。
このような業界内では有数の老舗会社であったにも関わらず倒産してしまいました。
バイクが売れなくなり、資金が回らなったことが倒産とのことです。
目次
外車バイクディーラー受難の時代
去年から幾つかのバイク店が倒産していますが、報道に載ったのは何れも外車ディーラーです。
トライアンフ横浜北の倒産
2017年1月に倒産
バイクショップ「トライアンフ横浜北」経営のビッグフォーが破産
神奈川県横浜市都筑区に本拠を置くバイクショップ経営の「有限会社ビッグフォー」(登記上:ビッグ・フオー)は、1月10日付で横浜地方裁判所より破産手続の開始決定を受け倒産したことが明らかになりました。同社のホームページによると、イギリスのバイクメーカー「TRIUMPH」(トライアンフ)の正規販売店として、「トライアンフ横浜北」の店名にて、同社製バイクの新車・中古車販売や車検・修理・整備を主力に事業を展開していました。
ところが、昨年末に改装工事による店舗の一時休業を告知したものの、その間に工事業者の出入りがなかったことに加え、店舗や代表者への連絡が取れなくなるなど不審な点が目立ち、12月中旬にはメーカーの正規代理店リストから除外されたなか、遂に今回の措置に至ったようです。
なお、同社のホームページ上では、バイク代金を支払ったものの納車が済んでいない、名義変更が完了していない、所有するバイクを預けたまま返還されていないなどの場合には、破産管財人へ連絡を取る旨の告知がされています。
出典 : 不景気.com
この倒産により経営者が「夜逃げ」したことから大きな問題となりましたので、ご記憶の方も多いでしょう。
責任者と連絡が取れなかったために破産処理が遅れ、被害者は相当な心労を味わっています。
破産処理が進まないと、破産時に社内にあった物が返してもらえないので、「車検のために預けていたバイクが、なかなか返してもらえなかった」という声も聞かれました。
ドゥカティ東京ウエストの倒産
2018年1月に倒産
「DUCATI TOKYO WEST」を経営
(有)トマトモータース(TSR企業コード:297935534、法人番号:6012802002860、東久留米市柳窪3-2-35、登記上:武蔵村山市三ツ藤3-50-3、設立平成12年1月、資本金300万円、大河原康社長)は1月9日、東京地裁立川支部より破産開始決定を受けた。破産管財人には番場弘文弁護士(多摩八王子法律事務所、八王子市明神町4-5-3、電話042-631-5311)が選任された。負債総額は推定3億円。
イタリアのオートバイメーカー・DUCATI社とBIMOTA社の正規ディーラー。一般顧客を対象とし「DUCATI TOKYO WEST」の店名で都内3店舗を運営するほか、オートバイのカスタムや車検・整備全般を手掛け、ピークとなる平成19年11月期には売上高約11億円をあげていた。しかし、オートバイ需要の落ち込みなどで、28年11月期の売上高は約6億円に落ち込んでいた。この間、経費削減や売上維持に努めたものの、資金繰りは限界に達し、今回の措置となった。出典 : 東京商工リサーチ
トマトモーターズが経営していた練馬店は、レーザーラモンRG氏がディアベルを購入した店です。
購入時には「納車会」として、動画もアップされました。
ビッグフォー(トライアンフ横浜北)の倒産は社長が夜逃げするという、大変悪質なものでしたが、トマトモータースの破産では誠意ある対応がなされたようです。
顧客から預かっていた部品なども、破産から数週のうちに個別に郵送返却されたとのこと。
このような対応は、当たり前と考えられがちですが、倒産時に信じ難いことをする経営者がいることは、旅行会社「てるみくらぶ」の破産やれ晴れ着のレンタル会社「はれのひ」の例からも伺い知れますので、トマトモーターズの対応は立派だと言って良いでしょう。
ハーレーダビッドソン新宿の倒産
2018年7月に倒産
~ハーレーダビッドソンの正規ディーラー~
(株)村山モータース(TSR企業コード:291234941、法人番号:5011001022985、渋谷区幡ヶ谷1-7-5、設立昭和28年8月、資本金5000万円、矢部泰幸社長)は7月18日、東京地裁から破産開始決定を受けた。破産管財人には増田充俊弁護士(増田総合法律事務所、港区西新橋2-18-1、電話03-3578-8388)が選任された。負債総額は債権者52名に対し約1億4000万円。
ドゥカティ、カジバ、ラベルダ(イタリア)、トライアンフ(イギリス)などヨーロッパメーカーのオートバイの輸入販売を主力に事業を展開し、米国メーカーのハーレーダビッドソンの国内代理店が設立される以前から取り扱っていた。ユーザーへの丁寧なアフターサービスなどから、ハーレーファンの間でも高い支持を受けていた。一時期はハーレーダビッドソン新宿店のほか、横浜市や八王子市にも店舗を構え、平成4年7月期には売上高約24億円をあげていた。
しかし、大型モデルの販売不振などを背景に、売上は年々減少。近年はヨーロッパ車の取り扱いを中止するほか、八王子店の閉鎖など大幅なリストラを行い、収益改善を図った。だが、業況の悪化に歯止めがかからず29年7月期の売上高約3億5000万円まで低下。今後の事業環境の改善が見込めないことから7月11日に事業を停止し、今回の措置となった。
なお、当社が運営していたハーレーダビッドソン新宿店は、現在、別会社が運営している。出典 : 東京商工リサーチ
村山モータースの破産もハーレーダビッドソン新宿の運営が継続されていることから、今後もキチンとした対応が取られると予想できます。
経営者はバイク業界の発展のためにも、自社の倒産が汚点となってはならないとの思いを持って、事後対応に当たられているのでしょう。
バイク屋が破産したら、どうなる?
会社が倒産した後の手続きは大変時間がかかるだけでなく、取引のある顧客にも多くの負担がかかります。
会社が倒産した場合の手続きを見てみましょう。
倒産が決まると、次のような手続きが執られます。
- 破産管財人(弁護士)が任命される
- 破産管財人が会社の全ての資産と負債を調査する
- 破産管財人が会社の資産を処分して現金化する
- 現金を負債の比率に応じて債権者に分配する
破産処理におけるポイントは3つです。
- 全ての手続きは管財人が行う
- 破産管財人は全ての資産を全ての債権者に公平に分けることを考える
- 公平に分配した結果、足りなかった分は基本的に諦めるしかない
それでは最近話題となった2社の大型破産をモデルに、破産処理の現実を見てみます。
てるみくらぶの破産処理
先ずは「てるみくらぶ」のケースです。
「てるみくらぶ」は格安旅行の予約を多数受け付けたにも関わらず、ホテルなどへの支払いが滞り、ツアー先で顧客がホテルに泊まれない等の事態を引き起こした会社です。
てるみくらぶの倒産時の負債額は151億円ほど。これに対して会社の資産残高は確定ではないにしろ、3億1,735万円ほどになるようです。
てるみくらぶ、配当が可能に
三井住友銀行と借入金相殺後の残高6,908万円の預金返還を受けることで合意。大韓航空からは販売奨励金2,996万円の支払いを受けた。さらに、5月1日までに過年度の更正請求等で2億31万円の税金還付を受け、さらに約1,800万円が還付予定
出典 : 東京商工リサーチ
つまり負債額は151億円に対して、返金できるお金は総額3億1,735万円、負債額の2.1%ということです。仮に100万円払っていた方であればその2.1%である2万1千円が戻りますが、残る97万9千円は返って来ないということです。
残る97.9%も返金するように社長に対して損害賠償請求を起こすことも可能です。しかし仮に全面勝訴となり、残債147億円の返金命令が出されたとしても、個人で払えるはずがありません。
幾ら請求したとしても、実際に支払いは得られないでしょう。
銀行や自動車会社など、社会的な影響が大きい会社が倒産した場合には税金が投入されて会社再建を図り、上手く行けば残債が返金されますが、旅行業のような余暇事業に対しては、政府の援助はまず望めません。
これと同じ理由で、バイク販売業に対して税金投入など先ず有り得ませんから、バイク店の倒産に巻き込まれた場合には、何らかの損を被る可能性が高いのです。
はれのひの破産処理
もう一つ、話題となった破産例を見てみます。成人式直前に店舗を閉鎖した「はれのひ」です。
「はれのひ」が着物の返還を終了、事件の真相はまだやぶの中
今年1月8日の「成人の日」に事業を停止し、一生に一度の新成人の夢を奪った、はれのひ(株)(TSR企業コード : 872372723、篠﨑洋一郎社長)が1月26日に横浜地裁から破産開始決定を受けてもうすぐ3カ月になる。
一切連絡を絶っていた篠﨑社長は1月26日に初めて会見に出席し、「保管していた着物や仮絵羽を順次お客様の手元に返していく」と話していた。4月16日、東京商工リサーチ(TSR)は、はれのひの破産管財人である増田尚弁護士(多摩川法律事務所)を取材した。破産管財人は、「お店で保管していた着物はほぼ返還が終わった」と安どの息をもらした。破産会見で示された資料には、「顧客の皆様の被害をできるだけ少なくする。早期返還を最優先にする」と記載されていたが、3カ月をかけおおむね約束は守られたことになる。だが、仕立て中だった一部の着物は、購入者が残金を支払わないと手元に戻ってこない。
出典 : 東京商工リサーチ
この記事から、破産企業が預かっていた着物を返すのに3か月かかったということと、着物を渡してほしかったら、未払い金を全額払わないといけないということが分かります。
被害者は成人式に着物を着られなかったのです。本当なら既に支払ったお金を返して欲しい所ですが、会社の清算処理中なので返金はされません。
将来返金されるとしても、てるみくらぶのように一部の返金しか得られないでしょう。
それなのに着物を受け取りたいなら残金を払えと言われる。
あまりにも酷いですね。ですが会社が倒産すると、このような事象は当たり前のように起こります。
何故なら清算処理は次のような優先順位で行われるからです。
1.会社が持っている資産を最大化する
例えば倒産時に預かっているバイクは、会社の資産とならないことが確認出来ないと返されません。
そのバイクに対して作業をしたのに回収できていない代金があれば資産対象となるので、残金を払わないと返してもらえなくなるのです。
全ての在庫バイクについて資産化できるかどうかの確認と資産額の算定が行われるので、膨大な時間がかかります。
2.全ての負債額を算定する
会社の倒産により代金が回収できない、お金は払ったのに商品が受け取れていない等の被害額を算定します。
被害を受けた全員が会社の記録に残っているとは限らないので、管財人は一定の期間を設けて被害者の申し出を受け付けます。
トライアンフ横浜北の倒産記事にも管財人の動きがこのように記載されていました。
「バイク代金を支払ったものの納車が済んでいない、名義変更が完了していない、所有するバイクを預けたまま返還されていないなどの場合には、破産管財人へ連絡を取る旨の告知がされています。」
3.配当を行う
全ての資産と全ての負債が計算されたら、全ての債権者に対して負債の額に応じた配当が行われます。
この配当は全ての債権者に対して均等に行われます。
ですが実際の倒産では、債務超過となっている(資産より負債の方が多い)場合が多く、配当がゼロ円ということも珍しくありません。
バイク屋が倒産した! 先ず行うことは?
このように付き合いがあるバイク店が倒産すると、顧客側は一気に不利な状況に立たされます。
その際に自分を守るために行わなければならないことは3つです。
1.自分で動く
倒産とは会社が突然無くなることを意味します。
そのため、「弊社は倒産しました。今後はこのような手続きになります」というような案内は届きません。
倒産が決まると、管財人(弁護士)が会社の資産を凍結しますので、案内状を出す費用すら認められないのです。さらに案内書を出す社員もいなくなります。
必要な情報は自分で取りにいかなくてはならないのです。
2.管財人に連絡をする
会社が破産すると、全ての処理は管財人によって行われます。
いくらバイク店の社長と懇意で、個人的に連絡が取れるとしても、先ずは管財人に連絡を行います。
間違っても社長に連絡を取り、自分のバイクをこっそり返してもらったり、購入済の商品を受け取ったりしてはいけません。
そのような行為は必ず露呈するだけでなく、場合によっては会社の資産を不当に減少させる違法行為と見なされます。
管財人の連絡先についても、基本的には自分で調べなければなりません。
多くの場合にはホームページで通知されるほか、閉鎖された店舗のシャッターなどに張られたりします。
3.管財人の指示に従う
悔しい気持ちは分かりますが、管財人の指示に従いましょう。
管財人の指示はかなり細かく面倒な内容になります。バイクが自分の物であることを証明するために、車検証の提示を求められる程度は序の口です。
お金を払ったのに納車を受けていない場合などは、売買契約書やローン契約書など、買ったこと、お金を払ったことを証明する書類の提示を求められます。
パーツを預かってもらっている場合などは、その部品が誰のものかを証明する書類が無いことが多いので、手続きは更に面倒なものになるでしょう。
トマトモータースが破産した後に、顧客から預かっていた部品が数週のうちに個別に郵送返却されたというのは、社長が真摯に対応したからに他なりません。
破産しそうな会社を見抜けないのか?
このような倒産に関する事実を知ると誰でも思うと思います。
「破産しそうな会社を見抜く方法は無いか?」
ですが現実にはなかなか難しいでしょう。
破産はある日突然表面化します。”はれのひ”や”てるみくらぶ”も事前に兆候が無かったからこそ、被害が拡大しているのです。
ですが会社の内部では事前に様々な動きが起こっています。
例えばこのような事象です。
・仕入れ代金支払いの遅延
・人員の削減
・給与の不払い・遅延
またこのような目に見える変化が出るかもしれません。
・一部店舗の閉鎖・縮小
・在庫台数の減少
実際に、トマトモータースは店舗数を縮小しています。しかしビッグフォーにはこのような兆候は無かったようです。
被害にあわれた方の証言でも、「そういえば、破産直前には店舗内が少し乱雑になった印象はあった」と述べていましたが、その程度の変化から破産をイメージすることは出来ないでしょう。
尚、ビッグフォーは倒産の1か月前にトライアンフから正規代理店の指定を外されています。このような変化に気付ければ、企業の危険度を伺い知るヒントにはなります。
「てるみくらぶ」「はれのひ」の破産とバイク店破産の決定的な違い
「てるみくらぶ」や「はれのひ」の破産と、「ビッグフォー」「トマトモータース」「村山モータース」の破産には決定的な違いがあります。
それはトライアンフ、ドゥカティ、ハーレーダビッドソンが顧客のサポートに動いたことです。
何れの破産も正規ディーラーのトラブルであったので、顧客が混乱しないよう、被害が拡大しないように、メーカー側が積極的に介入しました。
破産処理は管財人がルールに則って粛々と進めますので、メーカーが介入することで返金額が増えたり、商品の納入が早まったりすることはありません。
ですがメーカーが動いてくれたことが、被害者にとってどれだけ心強かったかは想像に難くありません。
バイク店破産の被害にあわないためには
このように、企業の倒産を予め察知したり、倒産後に被害を最小化したりするのは、たいへん難易度が高く、先ず無理と言って良いと思います。
ですがバイクを買う時は正規代理店から買うことと、購入後も頻繁にバイク店に出向いて、店の様子を見ることで、ある程度の自己防衛が可能です。
バイクを買うのも楽しむのも販売店選びが重要とよく言われますが、倒産と言う最悪の事態を想定した際でもこの原則は変わりません。
但し「店員の対応が良い」「技術力がある」というような評価と、会社の財務状況は全く関係が無いことは知っておくべきでしょう。
販売店選びの際には「万が一の際に、サポートが期待できる体制が有るか」という視点を加えてみては如何でしょうか。
最もサポートが期待できるのは、「正規ディーラーである」ということです。
バイク店選びにこの条件を加えることをおススメします。