過去に5億円にも達したことが有る、自動車交通事故の賠償金。
年々高額になってきていますが、賠償金の額はどのように決められるのでしょうか。
実は賠償の算出方法には複数の方法があります。
どの方法を使うかで、同じ事故でも賠償金の金額が大きく変わってしまうのです。
目次
賠償金の「いくつかの」ガイドライン
賠償金額にはいくつかのガイドラインが有ります。この「いくつかの」というのが曲者です。
そもそもガイドラインとは「統一の指針や、基準となる目安」なのですが、その目安や基準が複数あっては目安でも基準でも無くなってしまいます。
ですから交通事故では賠償金を決める際に「どの基準を前提にするか」を決めなければなりません。
どのガイドラインを使うかで賠償額は2倍以上変わる
交通事故の賠償金を決めるガイドラインは「自賠責保険基準」「任意保険会社基準」「弁護士基準」という3つがあります。
3つのガイドラインが大きく違わないなら問題は少ないのですが、実際に算定される賠償金は倍以上違います。
最も賠償金が高くなる後遺障害1級で、賠償金の差を見てみましょう。
治療に関する慰謝料
3つの基準の違いを見るために、それぞれの基準で算出される入院1か月、通院半年の場合の補償金額を比較します。
- 自賠責保険基準 63万円
- 任意保険会社基準 加入しているプランにより変わる
- 弁護士基準 149万円~
如何でしょう。自賠責保険基準と、弁護士基準の間には実に2.4倍以上の差があるのです。
後遺症に関する慰謝料
次に3つの基準それぞれで算出される後遺症の支給額を見てみます。
- 自賠責保険基準 1,100万円
- 任意保険会社基準 1,300万円程度
- 弁護士基準 2,800万円~(自賠責基準の2.5倍以上)
このように同じ賠償金でも、用いる基準により倍以上の差が生じます。
忘れてはならないのは、自賠責基準には上限金額が有りますが、弁護士基準には明確な上限が無いことです。
当然ながら加害者は自賠責基準を、被害者は弁護士基準の適用を希望します。
なぜ基準がバラバラなのか
そもそもなぜ3つも基準が生まれてしまったのでしょうか。
それは各基準の算定目的が違うからです。
自賠責基準の考え方
自賠責保険は「交通事故による被害者を救済するため、加害者が負うべき経済的な負担を補てんすることにより、基本的な対人賠償を確保することを目的」と定めています。
つまり、「被害者を救済するために、もともと加害者が負う責任を補う」ことを目的にしているのです。
被害者が必要となる額の全額を補償することは想定していません。
弁護士基準の考え方
弁護士基準は過去の裁判での判決をもとに設定されます。
裁判判決では「事故により被害者が失ったものの金額」が算出されます。
その金額には逸失利益という考えに基づいて、被害者が事故にあわなかたら得られたであろう利益が算入されます。
この考え方は自賠責保険にもありますが、自賠責と異なり裁判での算定には上限が無いので金額が全く違ってきます。
もし被害者が有名スポーツ選手で、年間に数億の賞金を稼いでいたとすれば、その方が将来得たであろう金額が全て算入されます。
実際の判決で全額が認められるとは限りませんが、相当な高額になることは間違いないでしょう。
任意保険会社基準の考え方
任意保険会社それぞれが独自に定めている基準です。
そのため公にはされていません。自賠責保険基準に少し上乗せした額であることが多いようです。
乖離が大きい自賠責基準と弁護士基準の落しどころを提示し、加害者と被害者の双方にとって合意しやすい水準としています。
この基準にはもう一つの側面が有ります。
会社の利益に影響を受けるのです。
言うまでもなく保険会社は利益団体ですので、利益を確保しなければなりません。
赤字になる被害額は払い難いのです。
保険加入者数により年間に払える総額も決まっているでしょう。
もし同じ年度に多額の保険金支払い事故があったら、その後の賠償額が圧迫されるかもしれません。
任意保険会社基準は自賠責基準よりも少し高い数値が設定されています。
これは任意保険会社が支払う補償額は「自賠責保険で補えなかった部分」のみであることによります。
例えばある交通事故で補償額が5,000万円となったとしましょう。
その補償額は先ず自賠責保険から支払われます。
自賠責から3,000万円が支払われたとすると、任意保険会社はその差額である2,000万円のみを支払います。
このような仕組みなので、任意保険会社は自賠責保険に近い水準を設定し、持ち出し額を抑制するのです。
どの基準を使うかをどう決める?
この3つの基準の中で加害者は最も安い自賠責基準を使いたいと思い、被害者は弁護士基準を採用したいと考えます。
実際には交渉により落しどころを探るのですが、どの基準を交渉の出発点とするかは重要なポイントです。
事前にどの基準を使うかを決めるための明確なルールは無いと言っていいでしょう。
弁護士が被害者の代理として交渉の場に入れば、弁護士基準の採用を主張します。
任意保険会社は任意保険基準を持ち出してくるでしょう。
加害者は任意保険基準を使おうとします。
示談交渉とは、このような全く相容れない主張の合意点を探る作業に他なりません。
ですがどの基準を希望するとしても専門的知識がなければ、自分の希望を交渉の場に持ち出すことすらできないでしょう。
自分に有利な基準を勝ち取るには
お互いの利益が相反する状況では、残念ながら個人の努力では希望の基準を勝ち取れないでしょう。
希望する結果を得るためには専門家の協力が必要です。
保険代理店を経由して保険に加入しているのであれば、代理店がその手助けをしてくれるでしょう。
代理店が直接交渉の窓口に立つことは有りませんが、加入者にとって有利に話を進めるために、どのような手段を取るべきかを教えてくれるはずです。
もし、協力してくれそうにないのなら、その代理店は失格です。直ぐに乗り換えることをお勧めします。
代理店を変えても、これまでと同じ保険に入ることはできます。
交渉が困難な人身事故などの場合には、弁護士を起用する必要があるかもしれません。
大きな事故になると、保険会社は一旦は任意保険会社基準での金額を提示してくると思います。
この金額が多いのか少ないのか、普通は判断できないはずです。
その際に弁護士の見解を得られれば大変心強いでしょう。
この際に弁護士費用特約が有れば一定額までは保険で弁護士費用を保険でカバーできます。
但し弁護士費用特約を用いる際には、事前に保険会社の了解を得るように定めている保険が多いので、その点を確認したうえで行動に移すことをお勧めします。