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交通事故鑑定人(柳原三佳著)

 

死人に口なし」とはよく言ったもので、本書には多くの理解しがたい事例が出てきます。

バイクの前面に傷がないのに、「バイクから正面衝突してきた」とされるようなケースはザラで、客観的物証を列挙したにも関わらず、判決を覆す事が出来なかった事例等も述べられています。

その原因は「バイクは危険な運転をするものだ、という偏見にある」と本書は述べています。

 

目次

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著者はライダー

著者の柳原さんは大型バイクを駆るライダーです。

ご主人ともども、バイク雑誌の編集に携われていますので、お名前をご存知の方も多いのではないでしょうか。

現在でも交通事故に限らず、法律や権力の思い込みに翻弄される方々の声を代弁する活動を続けられています。

ジャーナリスト・ノンフィクション作家 柳原三佳オフィシャルサイトHP

 

被害者救済の願いと戦いの記録書

この本は1991年から2002年までの出来事をもとに、2002年に刊行されています。

かなり古い本ですが、「悪を暴く」ような視点ではなく、「事故鑑定も自動車保険も、被害者を救済するという本来あるべき方向にキチンと進んで欲しい」という願いが行間から感じ取れる良書です。

著者や本書に登場される鑑定人、遺族の方々は等しくこのような願いを持ち、司法や警察、保険会社などが下した不当な結果と戦われてきました。

本書はその記録書ともなっているのです。

本書は「自分や家族が交通事故の当事者となった時に、どう対処すべきか。そのために今自分に出来ることは何か。」ということを考えるきっかけを与えてくれるでしょう。

 

熱意と冷徹な視点

本書はサブタイトルにもあるように、交通事故鑑定人である駒沢幹也氏(故人)の活動の記録です。

彼は被害者の境遇に涙し、全力でサポートする人情家ですが、鑑定となると決して被害者に肩入れするのではなく、遺された品々から理論的に事実を探り出していきます。

その手法は職人と呼ぶに相応しいもので、極めて緻密で客観的です。

彼は「車体の傷を見ればその時ブレーキを踏んでいたのか、ハンドルをどちらに切っていたのか、被害者の体と接触した部分はどこかは全てわかる」と言います。

また「本来であれば警察が現場検証でこれらの調査を行うべきなのだが、警察はこのような視点で物を見る教育を得る機会すらない」と指摘します。

 

証拠保全が何より重要

警察の現場検証で見過ごされる事実。これを覆すには「証拠」が何よりも重要ですが、証拠は時間とともに失われます。

現場のタイヤ痕は消えていき、事故車両もスクラップにされます。被害者の衣服なども「見るに堪えない」と遺族が早々に処分することも珍しくありません。

しかし事実を明らかにするためには、それら全てを保管すべきであると、本書は強く訴えています。

駒沢氏は、「事故の被害者に伝え続けて欲しい」と著者に次のようなことを告げています。

 

一.心の動揺はわかりますが、その悲しみに耐え、泣くのを半日我慢して、何はともあれ早い時期にカメラを持って現場に行く、あらゆる角度からこれと思うもの(サイト管理人注記:「これと思うもの」とは衝突した傷、道路のタイヤ跡、現場周囲の状況、天候や視界まで含んだ文字通りあらゆる物を意味します)を写しておく。

二.次に警察に行く。警察に保管中の加害車両の写真をできるだけ欲張って撮る。上手下手は問わない、キズのあるところはもちろん、キズのないところも。(これは自分側の車も同じ)

三.その他、衣類、持ち物、等々も保存しておくように。災難に遭った人の家族や遺族の多くが、後日、地団太を踏んでも、追いつかない苦境に置き去りにされるのは、これらの物証の保存がないことが第一の原因です。

「人は誤りうるが、物は誤ることがない」

このことの重要さを一人でも多くの人々に伝えてください。

 

また、著者が出会った被害者遺族はこのように述べていたそうです。

18歳の息子を失ったある父親は、以前、悔し涙を浮かべながら、私にこう語ってくれたことがあった。

「もし家族が事故で命を落とすようなことがあったら、通夜や葬式よりも、まず現場検証に立ち会い、自分で証拠を確認すべきです・・・・」

 

何れも事故に接した方にしか言えない言葉です。

幸いにしてまだ事故にあっていない私たちはこの言葉を心に留めておくべきではないでしょうか。

 

難しい「交通事故鑑定人」の選択

本書でもいくつかの事例が挙げられていますが、「交通事故鑑定人」にもいろいろな方がおり、事実探求に執念を燃やす方もいれば、詐欺士まがいの人物もいます。

言うまでもないことですが、交通事故鑑定人と接点を持つのは交通事故の後です。事前に優良な選定人を選ぶということは事実上不可能です。

では、優良な鑑定人を選択するにはどうすれば良いのか。

ネット上で「交通事故鑑定人」と検索すると様々な業者が出てきます。

中には依頼情報だけを弁護士に流し、紹介料を得る事を目的としていると思われるサイトも有ります。

事故後のショックや後処理の中で優良な鑑定人と出会うのはかなり難しいことが容易に想像できます。

鑑定人の選定には交通事故被害者団体からの情報提供などが適切と思いますが、いずれにせよ選定には相応の時間がかかるでしょう。

時間がかかってでも優良な鑑定人に出会えれば良いのですが、出会えたとしても大きな問題が生じます。

かかった時間の分だけ、事故の物証が失われるのです。

証拠がなければいくら優秀な鑑定人でも手の施しようが有りません。

 

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書籍はどこで手に入る

古い本ですので書店在庫はあまり期待できません。また、新書ということもあり図書館などで手にできる可能性もあまり高くないと思います。

書店で注文されるか、電子書籍でのご購読をお勧めします。

 

 

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